背景
国際ハーモナイゼーションへの対応ということから先発明主義から先願主義に米国が方針変換することが話題になっていますが、それよりもこの改正の背景には産業界からパテント・トロール(Patent
Troll)への対応を要請する声が強まっていることが大きいようです。
パテント・トロールとはペーパー特許を使って大企業を恐喝、巨額の和解費用などを得る「トロール(怪物)」といった意味です。この「トロール」は、潰れた会社等からペーパー特許を購入しターゲットを定めて警告状を発送、差し止めをちらつかせて恐喝します。脅された企業は訴訟沙汰を避けパテント・トロールに対してライセンス料を和解金として支払います。一方パテント・トロール側は、多額の和解金を資金に別のターゲットを狙う、という悪循環が繰り返されているのです。
この問題は米国では広く使われているPDAのブラックベリーに対して特許侵害による差止請求がなされた事件などで高額の和解費用や損害賠償額が問題になってきました(ブラックベリー事件)。
これら問題の原因として劣悪なペーパー特許が多く存在する現実のほかに、裁判が有利に働くような裁判管轄を狙って訴訟を提起するいわゆるフォーラム・ショッピングということが問題となっています。この一例として一地方の連邦栽培所にすぎないテキサス東部連邦地裁において多くの特許訴訟が提起されているという例があります。人口2万数千人の街の特許に関して素人である陪審員が判断する陪審裁判で、特許権者側に有利な結果になることが多く(原告=いいヤツ、被告=悪いヤツというイメージが先行する風土、判事までが原告寄りであることを憚らないとも言われています。)、かつ、訴訟の進行が速いとの理由で多くの特許訴訟がこの地で提起されています。これだけが理由とは一概にはいえないもののテキサス東部連邦地裁では、2003年に32件だった受理件数が昨年2006年度は234件にも上っています。
これら現実に対応するべく米国は特許制度の抜本的見直しを迫られているのです。
下院を通過した改正法案に対する評価・上院で可決する可能性
来年は大統領選挙ということもあり、単純に内容で判断されるわけではなくいろいろな要素、思惑が絡んでいるようです。
まず、IT産業の諸企業(Apple, Cisco, Google, Intel, Microsoftなど)は、特許訴訟の数の増加、特許侵害による損害賠償額が拡大している現状を好ましく思ってはおらず、特許侵害紛争を制限し得る改正法案は歓迎しているようです。
他方、バイオ産業、製薬業界など、特許のライセンスに依存する傾向が強い企業などは反対の意向を表明しています(Bristol-Myers Squibb,
Eli Lilly, GlaxoSmithKlineなど)。
法案が法律として成立するためには、上院を通過し、米大統領の同意も必要です。同内容の法案(S1145)は米上院にも同時に提出されており、2007年7月19日に上院司法委員会は通過しています。現在もロビー活動や交渉等が継続的に行われており、今後も注目していく必要があります。